組込課題台詞5題
*一人称はすべて郭嘉です


「万人にとっての正義は存在しない」

そのとおりだ。それは正しい。
すぐ正義のためなどと口にするヤツは、己のエゴに捕らわれて周りの見えない大莫迦者だ。
正義とか、大義とか。
そんなものは、胸の奥に隠しておけばいい。
必要ないものだなんて言わない。
他人の命の奪うには、それなりの理由が必要だから。

「俺には俺の正義しかない。クソ真面目に正義を説かれると、可笑しすぎて涙が出そうだ」

笑いながら言い放つ。
だから私は、この方の傍を離れられない。




「俺と契約して俺をおまえのものにしてくれ。そしたら一生おまえのことを守って、一生大事にしてやる」

言われた言葉の意味が呑み込めない。
一度反芻して、見つめてくる目を見返した。

「…私があなたのものになる、のではなくて?」
「ああ!」

からりと、悪びれない笑顔。

「別にどっちでもいいだろう!大事なのは後半部分だ!」
「はぁ…」
「で。契約するか?」

詐欺だとしても、これほどの杜撰さはないだろう。
賭け代(しろ)の分からない、そんな契約が成り立つわけもないのに。
どうしたことか。
言い返す、上手い言葉が見つからなくなった。




「ただの毒舌気取ったクソガキだろ」

聞き知った声が聞こえる。
名前は知らない、だが、たまに朝議で耳にする声。
誰のことを言っているのか、訊かずとも知れたけれど。
黙って通り過ぎる気分ではなかったため、わざと顔を覗かせた。
とたんに目を逸らし、口篭る名も知らぬ人々。
ああ、失敬、訂正だ。
とたんに口篭る、名を知る必要もない類人猿ども。
言葉を話す能力があるのなら、面と向かって言えば良いのに。




恐らく、これは窮地。
窮地に立つよう、仕向けたのが己の策なのだとしても。
ここまで追い込まれたのは、ただ単に、主役が一軍師を構いすぎたため。

「こういう段取りではありませんでした。殿、ここは放って、先へお進みください」
「煩いな」
「煩いとはなんですか」
「いいから、大人しくしてろ。おまえの指先に傷一つつけただけで、俺の能力が疑われる」

痛いほど強く肩を抱き寄せられる。
私の能力が疑われるのは構わないのかと。
問い詰めたくなったが、真剣な横顔にひとまずは不満を呑み込んだ。




「意外と間抜けだな、おまえ」
「そのようなこと、言われたことはありませんが」
「おや、怒ったか?そうだな、間抜けじゃなくて天然か」
「益々言われたことはございませんし、思ったこともありません」

薄笑いを浮かべた顔を睨みつける。
だが、端整な顔は性懲りもなく笑み崩れた。

「あたりまえだ。『自称・天然』ほど胡散臭いものはないだろう?だから、おまえは可愛いんだ」
「…残念ながら、そのような言葉も言われたことはございませんな」

にっこりと、出来るだけ引き攣らないよう笑み返す。
喰えない男。
それでも、やはりこの場に留まってしまう己が、ほんの少しだけ哀れに思えた。



組み込み課題台詞:
「万人にとっての正義は存在しない」
「俺と契約して俺をあんたのものにしてくれよ。そしたら一生あんたのこと守って、一生大事にしてやる」
「ただの毒舌気取ったクソガキだろ」
「大人しくしてろ。あんたの指先に傷一つつけただけで俺の能力が疑われる」
「『自称・天然』ほど胡散臭いものはないだろう」

お題配布元:rewriteさま