痛く切ない恋愛の10のお題
ほら、公謹。おもしろいもの見せてやる。

君はよくそう言って、本当に、見たこともない変わったものを持ってきた。
それは、やはり変わりもの好きの孫堅殿が、多様な人脈を伝手に各地から掻き集めたもので、多くはどこに価値を見出せば良いのか分からない、そんな不思議なものだった。
中でも君は、果物の皮が原料だと言う煙草が好きで。
竹を穿った簡単な煙管にそれを詰め込むと、ぷかりと白い煙を作った。

ほら、見ろよ。奇麗な輪になったぞ。

自慢げに君は笑う。
こっそり隠れて吸う煙草の匂いは、君の茶色がかった髪に染み込んで。
きっと皆にはバレていただろうけれど。
父親のようになりたいと願う、その真っ直ぐな思いがあまりにも眩しすぎたから。
子供染みた背伸びと憧れを、誰もが微笑ましく見逃した。


「久しぶりだな、伯符。この周公謹、君の刃となりに来た」

逸る心に声が震える。
馬の嘶きと勝鬨の地鳴りと。
傍らに居る君は、鮮やかに笑った。

けれど、あれほど髪に馴染んだ煙草の匂いは、もう、僅かも香らない。
離れていた時の長さと、費やした平らではない道のりが垣間見えて。

「なにじっと見てんだよ?さては、男ぶりに見蕩れてるな?」

握りこんだ拳を脇腹へ叩き込んだ。

「いってぇ!」
「自業自得だ」
「ちぇ!相変わらずだなぁ。まぁ、それでこそ公謹か」

からりと笑う強い眼差しに、不意に視界が奇妙に滲む。
煙草の匂いはもうしない。
孫堅殿は、もういない。
けれど。
ここにいるのは、誰の模倣でもない新たなる王。

「公謹、会えて良かった」

喉に詰まった声の代わりに、深く頷く。
遠く、君を思い続けた日々より長く、

これからは傍らで、遥かなる未来を。