存在証明
右の二の腕が酷く痛んだ。
流れ落ちる液体が、そこだけ熱を孕んだように熱く感じる。
馬は、疾うに失っていた。
引き摺る足も、無事とはいかない。
地に落ちて、暗い森の中を這いずり回る。
ここにこうしている己には、何の存在価値もありはしない。

戦えなくてもいい。
剣など振るえなくとも構わない。
しかし、
姿が見えていなくては意味がないのだ。
指示が出せぬくらいなら、
軍師としてカケラの価値もありはしない。

早く、一刻も早く。
馬を奪って、戻らなくては。

焦れば焦るほど、思いのままにならない足は重く。
腕を伝う熱は、よりいっそう増したような気がした。

過ぎし遠き日。
鮮やかに、騎馬が跳ぶのを見た。
赤い馬に跨った、人の子にあらぬ将軍の姿。
人の手には負えぬ、一匹の龍。

飼いならせとは言ったものの、
それが叶わぬことも知っていた。

思いがけずも手に入れたのだ。
曹孟徳が生かした、龍の眷属。

今我が手には、
在りし日の最強の騎馬軍団と、
それを統べる、彼の者がいる。

戻らなくては。
一刻も早く。
まだ、我が手に馴染みきらぬ、あの美しい騎馬隊の下へ。

失態を振り返る暇はない。
ただ、前だけを見据えて歩を進める。

見上げた空、鬱蒼と茂る木々の隙間。
薄い光を弾いて、

黄金(こがね)に輝く髪が視界の隅で揺れた。