Merry Christmas
「クリスマスプレゼント?」

不信感も露わな声で、鸚鵡返しに繰り返す。それを見て、曹操は満面に笑みを浮かべた。

「そうだ。何が欲しい?言ってみろ、郭嘉」
「私は子供ではありません」
「構うものか。俺がくれてやると言うのだ。遠慮せずに言ってみろ」

機嫌の良い主の顔を見上げて、重たげな冠を載せた頭が僅かに傾いだ。

「では、」
「そうだ!優秀な騎馬軍団とか堅固な要塞とか、そう言う戦に関するものはすべて却下だからな!中華統一と言う願いも、今回は駄目だぞ」
「……では、何を望めばいいのですか」
「おまえが個人的に、私生活で欲しいものだ。大概のものなら、クリスマスプレゼントにしてやろう」

妙に期待に満ちた目を向けられて、郭嘉は唇を引き結んだ。
どうせ、ここのところの周囲の浮かれた雰囲気につられ、急に思い立ったに違いない。
多少馬鹿馬鹿しくも感じたが、気分屋で祭り好きの主の性格は嫌と言うほど知っている。
あえて反抗して面白がらせることもないかと、一応真面目に考えてみた。

個人的に、私生活で必要なもの…。

考えをめぐらせるが、パッとしたものはなかなか思い浮かばない。
酒、と言う無難な選択肢もあったが、独りで飲むほど酒好きでもなかった。
むしろ、独りで飲むくらいなら、
それよりも…

「私は、との、」

言いかけて、はっと口を噤む。
唐突に瞠られた真っ黒な双眸を、曹操は不思議そうに見返した。

「どうした?」
「なんでもありません」
「そうは見えんが」
「なんでもありませんっ!欲しいものは、あとでお伝えします!」

慌てて回れ右をすると、郭嘉は長い黒衣を引き摺って、ばたばたと駆け出してしまった。
引きとめようと、中途半端に伸ばした手をぶらぶらさせて、残された曹操はふと周囲を見回した。
出会い頭に廊下でやり取りしていたために、いつの間にか、遠巻きに幾人かの野次馬が出来ていた。

「あの顔は、絶対なんでもない顔じゃなかったぞ…」

呟いて、にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
追いかけて吐かせるよりも、二人きりの時にじっくり問い詰めてやろう。
そう決めて更に機嫌を上昇させた曹操は、聴いたこともない自作のクリスマスソングを歌いながら、足取りも軽く歩き出した。

一方。

一目散に自室に戻った郭嘉は、誰もいないのを良いことに、盛大に机の上に突っ伏していた。

 欲しいものは何?

問い掛けに、思わず、目の前に居た人を口にしかけた。
その無意識の有り得なさに激しい眩暈を覚え。

絶対に突っ込んでくるだろう主にどう対処するべきか、
痛めなくてもいい頭を抱えて、胸の動悸に眉を顰めた。

『あなたがいれば、それでいい』

Have a Sweet Christmas.