Heaven sent to
ひらひらと舞い落ちる風花
黒い髪に、黒い着物に、白く淡く、降り積もる
水墨画の中に色らしい色は、着物を縁取る僅かな朱(あけ)
そして、その朱の色に似た、佇む人の細い指先
壊すのは躊躇われる
偶然が描く、一幅の絵画

けれど


「何をしている?」


鮮やかな赤色(せきしょく)を注し込ませる
色付いた世界に、絵の中の人は鼓動を取り戻した


「殿」

「真っ白になって、凍えるつもりか」


触れた手は、余りにも冷たい
言われて初めて気づいたように、瞬いた睫から粉雪が散った


「冷え切っているぞ」

「そのようですね」


くすりと小さな笑いが返る
痛々しく凍えた雪色の頬に、漸く血の色が薄く透けて


「この広大な北部四州、袁家になど不要のもの。必ずやすべてを殿の手に」


指し示すは、眼下に広がる白銀(しろがね)の大地
黒檀の双眸は、雑じりのない熱情のまま遥か遠くを見据えた


喩えようもなく美しい、と
ただ、その純粋に魅せられる

どれほど肥沃な大地よりも、どれほど繁華な都よりも
傍らにあるその存在が、
何にも優る、天与の品

他者を支配しなれたはずの身が、ただ一人に囚われて
これほどまでの執着を、言葉にする術などあるはずもない

だから


「おまえからの贈りものか。楽しみにしていよう」
 
「御意に」


微笑みに紛らせて、冷え切った身体に温もりを分ける
色付いた薄い唇が、腕の中で誇らしげに綻ろびた


ひらひらと舞い落ちる風花
黒い髪と、赤い髪に、白く淡く、降り積もる

優しく穏やかな静寂の中、
寄り添う色彩を際立たせて