Merry Christmas
澄んだ、高い空。

「もう24日だって言うのに、雪、降らねぇなぁ」

薄蒼いその色を見上げて、形の良い口元から小さな溜息が零れた。

「寒いのは寒いんだけどなぁ。悪かったな」
「え…?」
「わざわざこんなとこまで引っ張って来たのにさ。ホワイト・クリスマスになるかと思ったんだけどなぁ」

精悍な眉を情けなさそうに顰め、長身の人は傍らを振り返った。

「寒いだろ、周瑜?もっとあったかそうな襟巻き買うか?帽子でもいいかな」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ。手、冷たくなってるんじゃないか?」
「平気だよ、孫策。ほら、雪が降らなくても、こうやって許都のクリスマスを見られるなんて、とても貴重な体験だし」
「そうか?」
「そうだよ。それに、魏の人たちは興味深い。久しぶりに、郭嘉殿や張遼殿にも会えたしね」
「それはそうだな。ただ、嫌味なおっさんにも会うことになったけどな!」

からりと笑い飛ばして、孫策は良い匂いが漂ってくる屋台のほうへと足を向けた。

「お、周瑜!なんか旨そうなものがあるぜ!喰ってみるか?」

ひらひらと手招きされ、小さく頷く。
優しく微笑む空色の眸に、同じように、笑み返した。

『ホワイト・クリスマスが見たかった』

それも、きっとひとつの理由。
でも、本当は。

政務に少しだけ疲れた自分を、建業から無理やりに連れ出してくれた……

「ありがとう、孫策……もう、大丈夫だから…」

白い息に紛らせて、微かに呟く。
何か言ったか?と問いかけた人に、否定の意味で緩く首をふって。

「あ!」

目の先に、ふわりと、白い結晶が舞い落ちた。

「雪だ、孫策、雪が降ってる」
「え?あ!ホントだ!」

二人して、空を見上げる。
雪はふわふわと、いくつも、蒼い空から舞い落ち始め。

目を、見合わせる。

どちらからともなく繋いだ手に、言葉にはならない、ぬくもりが伝った。