つぎはぎ
殿に頼まれたからと言って、弓を教えに来たのだと言う。
お節介な性分は、隻眼の従兄弟殿にも劣らない。

「弓は得意じゃないんです」
「だから練習するんだろ?ほら」

この性格を見越した上での、子供染みた嫌がらせ。
意地悪げに笑う顔が脳裏に浮かんで、力任せに弓を射た。
けれど、予想に違わずに、
矢は遠くの的まで届きもしない。

「弓は嫌いなんです。吾は細剣があればいい」
「でも、筋はいいぞ。あとは筋力さえあれば」

それが問題なんだろう?とは、口にしても仕方ない。
黙ったままで憮然とすると、背後から太い腕が回された。

「ほら、もう一回引いてみなよ」

言われるままに、もう一矢。
添えられた力で、今度は的のど真ん中が射抜かれた。

「な?」
「困ったな。これから吾が弓を射る時は、いつも妙才殿に傍に居て貰わなくては」

肩を竦めると、「殿が何て言うかなぁ」と屈託ない声が笑う。
改めて傍らを振り向くと、ぼろぼろの肩当てが目についた。

「つぎはぎですね。よほど古いものですか」
「ああ。これは俺が最初に戦に出たときに使ってたヤツなんだ。自分でつぎはいで使ってるうちに、愛着が湧いて来てよ」
「へぇ、自分でね」

縫い目が不揃いのつぎはぎの中、
ひとつだけ整った、綺麗な箇所。
指を伸ばすと、子供のような笑顔が返った。

「ここだけはこの前、張コウに縫って貰ったんだ」
「へぇ・・・」
「綺麗に出来てるだろ?」
「ええ」

目立たないように主張する、ほんの小さな紫の切れ端。
何処までこの天然に、通じているのか。

それはきっと、

弓よりも見ものだ。